研究課題
1.Fyn欠損マウスの扁桃体における遺伝子発現変化の網羅的解析による情動機能異常に関連した分子マーカーの探索Fyn欠損マウスが示す恐怖反応の亢進を中心とした情動異常にかかわる分子を明らかにし、発達過程における脆弱性の分子マーカーを見出すため、野生型とFyn欠損マウスにNMDAを投与してNMDA受容体を刺激し、扁桃体亜核における遺伝子発現について両系統間ので差を示す遺伝子の網羅的解析を行った。NMDA投与後、脳を採取して凍結切片を作成し、レーザーマイクロダイセクションにより扁桃体中心核、外側核、内側核を切り出してmRNAを抽出した。これを用いてハイブリダイゼーション用プローブを作成し、かずさDNA研究所の機能未知のマウス脳遺伝子のcDNAマイクロアレイを用いて、Fyn欠損マウスの各亜核で、NMDA投与により特異的に変動する遺伝子を探索した。その結果、変動の認められる約30の遺伝子のうち、厳しい統計学的基準でFyn欠損マウスの中心核で特異的に発現の差を示す遺伝子として、mKIAA1577クローンを同定した。この遺伝子は、NMDA投与で中心核に特異的に増加し、投与後2時間をピークとして変動すること、ホモロジー検索から、MAPKシグナル伝達系に関与することも示唆され、情動機能に関連した分子であることが強く示唆された。更に、ストレス脆弱性に関連してFyn欠損マウス脳内で変動を示す分子を探索するため、抗精神病薬投与で引き起こされる、脳内チロシンリン酸化の変動を調べたところ、線条体のNMDA受容体NR2Bのリン酸化がFyn欠損マウスでは特異的に低下しており、これが行動異常と密接に関連することも明らかにした。このシグナル伝達系の異常についても、発達過程の脆弱性に関連した分子マーカーとしての意義を更に検討してゆく。2.Fyn欠損マウスの神経発生過程における細胞移動障害の分子機序の解析Fyn欠損マウスの大脳新皮質ではII-III層の層形成異常が認められるが、この異常に関わる分子機序を明らかにするため、子宮内エレクトロポレーション法を用いて、細胞移動の解析を行った。その結果、胎生後期に発生する皮質ニューロンの移動が特異的に障害され、Fyn遺伝子を導入することで移動障害が改善されることを明らかにし、障害が特定の発達時期に起こることを証明した。この知見により、脳発達の脆弱性と、特定の遺伝子発現が密接に関連することが明らかになった。
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Brain Research 1073-1074
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