ウィリアムズ症候群(WS)の顔の認知に関して脳磁図および脳波を用いて神経生理学的な検討を行い、定型発達者と比較した。定型発達成人では、顔の個々の構成要素に着目するlocal processingに基づく倒立顔認知は構成要素の空間的位置を相対的に判断する正立顔認知に比して処理に時間がかかる(倒立効果)とされている。本研究ではこれらの認知メカニズムに着目し、以下の研究を実施した。 1)左半視野に提示された倒立顔、正立顔刺激に対する脳磁場反応の測定(13歳WS患者):顔認知に特異的とされる反応成分を認めた。正立顔刺激に対しては反応潜時、反応部位に定型発達成人との違いを認めず、同等のメカニズムが推定された。一方、倒立顔刺激では正立と比してむしろ潜時が短縮していて倒立効果を認めず、WSの認知特性であるlocal processingの優位さを反映している可能性が考えられた。(今年度pediatric neurologyに論文が掲載された。) 2)新規参加のWS患者および同年齢定型発達小児における、倒立顔、正立顔刺激に対する脳磁場反応の測定:新規作成の顔視覚刺激を用い全頭型脳磁計を用いて実施中である。 3)左半視野に提示された、2)と同様の倒立顔、正立顔刺激に対する事象関連電位の測定を11歳、13歳、16歳のWS患者に実施し、同年齢の定型発達者グループと比較検討した。その結果、同年齢定型発達者と有意に異なり、倒立効果を認めない例と、同年齢定型発達者と同様の倒立効果を示し有意な違いを認めない例がある事が確認され、WSにおける顔認知の発達は倒立効果の発現に関して一様でないことが明らかとなった。 4)3)における両者の違いが何に由来するかを検討するため、これまでの臨床的記録ならびに各種検査所見を比較検討したところ、3次元知覚などの視空間認知能力の発達との関連が示唆され、さらに検討中である。
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