ウィリアムズ症候群(以下WS)においては、視空間認知の障害が指摘されており、その原因として視覚認知経路のうち、運動視、位置、3次元の知覚にかかわる背側経路の障害が推測されている。一方、視覚認知腹側経路の機能の一つである顔認知の能力は比較的保たれているとされてきたが、倒立顔に対する反応は特異で、健常成人に見られる倒立効果(正立顔に比して倒立顔の同定の困難さや反応潜時の遅れ)をみとめないとする報告もみられる。我々は、WS患者における顔倒立効果の有無、その発達経緯と定型発達者との異同、顔倒立効果の発現にかかわる要因の検討を行うことにより、WSの病態生理の一端を明らかにするとともに、ヒトの視覚認知のメカニズムの解明への一助とするため本研究を行った。 5名のWS患者における脳磁図と事象関連電位(ERP)による検討の結果、大半は顔の倒立効果が欠如していたが、ERPにおいて、一名の14歳男性患者において顔の倒立効果を認め、その反応は同年齢定型発達者と有意差がなかった。1名の11歳男性患者においても倒立効果は欠如しているものの、同年齢定型発達者と有意差をみとめなかった。すなわち、WS患者においても神経生理学的検討により顔倒立効果を認める例と、認めない例があることが判明した。臨床的、心理学的経過を縦断的に検討したところ、前者では後者に比して、3次元図形の模写課題の発達が比較的良好であることがわかった。これは視覚認知腹側経路の代表的機能である顔認知機能の発達に背側経路の機能にかかわる3次元課題の遂行の発達が関与している可能性を示し、両経路の関連を明らかにする上で興味深い所見と考えられた。 なお、長期にわたり縦断的に経過観察された視空間認知課題の発達経過について巻末に報告を添付した。
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