研究概要 |
現在、抗癌剤感受性因子は、DNAマイクロアレイに象徴される大量スクリーニング系によって、ひろく探索されている。しかし、多くの抗癌剤がDNA代謝を障害するものである事実を踏まえると、DNA修復をはじめ、DNA代謝を制御する諸機構の活性が抗癌剤感受性を左右することは想像にかたくない。研究代表者らは、悪性腫瘍にひろく用いられてる5-fluorourail(5-FU)と、この薬剤の主たる作用点であるチミジル酸合成酵素(thymidylate synthase,TS)との関係に注目した。5-FUは細胞内に取り込まれると、dUMPフォームにまで代謝されるが、このFdUMPはTSと不可逆的な酵素基質中間体を形成するために、TS活性を強力に阻害し、この酵素に依存するdTTPの供給が断たれる。このことがDNA複製を阻害し、ひいては細胞増殖の抑制や、細胞死の誘導をひきおこしているものと考えられている。したがって一般に、TS活性が高い細胞では、5-FU感受性が低いと考えられている。実際に化学療法を施された腫瘍症例におけるレトロスペクティブな研究では、この考え方を支持するものが少なくないが、このことを、遺伝学的バックグランドのちがいに配慮して、演繹的に取り扱った研究は1報の報告があるのみである。研究代表者らのグループはTSの発現レベルが低いヒト大腸癌由来株化培養細胞DLD-1において、TS cDNAを薬剤により発現調節可能なベクターを用いて導入し、調節的に発現されたTS量/活性レベルと5-FU感受性との関数関係にアプローチすることとした。現在、発現ベクターの構築を終了し、細胞のトランスフォーメーションを行っている。
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