エストロゲンが中枢神経系に対して保護的に作用することに関しては数多くの研究により実証されている。本研究は、エストロゲン作用を有する様々な内分泌撹乱物質の胎児期・新生児期の暴露がその後の中枢神経系の発達にいかなる影響をもたらすかについて、検討を加える目的で行うものである。 グルタミン酸(Glu)は、中枢神経系細胞のアポトーシスの発生において中心的な役割を果たす神経伝達物質であるが、新生児期の神経細胞は、成人に比してGlu毒性に対し非常に脆弱である。Baxは、Bcl-2 family proteinの一つで、中枢神経系細胞のアポトーシスの過程において、細胞質からミトコンドリア(Mit)へと移行し、Mitからのcytochrome cなどのapoptogenic因子の放出を促すproapoptotic蛋白である。 本年度はまず、中枢神経細胞におけるエストロゲンのアポトーシス抑制効果について、神経細胞初代培養系を用い、このグルタミン酸負荷による神経細胞のアポトーシスがいかなる機序で発症しているのかを検討した(論文投稿中)。 日齢7のS-Dラットより採取した新生仔小脳顆粒細胞初代培養系を用いて、Glu負荷よるアポトーシス誘導モデルを作製した。Glu負荷に対するBIPのアポトーシス抑制効果につき以下のアッセイを施行した。(1)cell viability(MTT assay)(2)TUNEL染色(3)caspase3、caspase9活性の測定(4)Baxの細胞内局在の解析(細胞分画→Western Blotting法) <結果>(1)Glu負荷によりアポトーシスは誘導され、caspase3、caspase9活性の上昇、BaxのMitへの移行、Mitからのcytochrome cの放出がみられることを確認した。(2)BIPは濃度依存性にGlu毒性による神経細胞死を抑制し、Glu負荷15分後の投与でも抑制効果を有した。(3)BIP投与により、Glu負荷によるTUNEL陽性細胞数は減少した。(4)BIP投与によりcaspase3、caspase9活性は抑制され、Baxとcytochrome cの細胞内移行も抑制していた。 <考察>以上の実験結果から、Glu負荷よる神経細胞のアポトーシスはBaxを介することが明らかとなった。次年度はビスフェノールA投与による中枢神経細胞のアポトーシス抑制効果の有無を検討するとともに、その効果がBaxを介するか否かにつき検討を加える予定である。
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