胎児副腎は、妊娠維持や臓器の成熟、種によっては分娩発来に関与する重要な臓器であるが、その発育や機能の制御については不明な点が多い。ヒト胎児副腎皮質は主として外層のdefinitive zone (DZ)および内層のfetal zone (FZ)の二層からなる。in vivoにおいて、細胞増殖は前駆細胞のプールと考えられるDZにほぼ限定して認められ、FZではほとんど見られないことが知られている。これまでヒト胎児副腎に高発現し局所因子として重要であると考えられてきた成長因子は、いずれの層由来の皮質細胞に対してもin vitroで増殖効果を示し、DZ特異的に働く因子の存在は明らかでなかった。Midkine (MK)は細胞増殖、分化、遊走促進など多彩な生物活性を示しヘパリン結合性を有する成長分化因子である。マウスでは胎生中期にピークを持つ一過性の発現を示すことが知られている。 本年度の研究で、リアルタイムRT-PCRを用いた検討では、ヒト妊娠中期胎児副腎のMKmRNAレベルは成人副腎に比べ4倍以上高く、MK高発現部位である脳や胎児腎臓のレベルに匹敵した。また蛋白レベルでも胎児副腎で高発現が確認された。初代培養細胞を用いた検討では、MKはDZ由来の細胞のみに増殖活性を示した。さらに胎児副腎皮質細胞に類似した表現型を有するNCI-H295A細胞に対しても、MKはDZ細胞と同様の増殖促進作用を示した。以上よりMKはヒト胎児副腎の発育において重要な役割を演じていることが強く示唆された。また、これまでMKの作用機構に関与する受容体と報告されてきたAnaplastic lymphoma kinaseやProtein tyrosine phosphatase zeta等はDZ細胞には発現しておらず、MKはこれまで知られていない受容体を介してDZ細胞増殖促進作用を発揮するものと考えられた。
|