研究概要 |
我々はマウス妊娠中期の胎児諸臓器で高発現する成長因子Midkine(MK)に着目した。ヒト副腎(妊娠中期)における検討では、成人副腎に比べ胎児では4倍以上のmRNAレベルが高く、蛋白も強く発現していることが示された。しかもMKはDZ細胞のみに増殖促進作用を示しFZ細胞には効果が見られなかった。阻害剤投与実験によりMKシグナリングに関与するpathwayを検討すると、MAPKキナーゼ、PI-3キナーゼ、Srcキナーゼの関与が示唆された。さらにMKは胎児副腎の主要なregulatorであるACTHにより発現増強されることが明らかとなった。またMKと結合しMKシグナル伝達に関与していると考えられている複数の受容体候補蛋白のヒト胎児副腎での発現に関して,syndecan-3(SDC3)がDZに特異的に局在していることを明らかとした。したがって、SDC3は我々が本研究で見いだしたMKのDZ細胞特異的増殖促進作用に関与することにより、ヒト胎児副腎においてin vivoで認められるDZ主体の細胞増殖機構の一端を担っている可能性が高いものと考えられた。また我々はMKがin vitroでコルチゾール産生のkey enzymeであるHSD3B2の発現を抑制することも明らかにし、妊娠中期までの胎児副腎におけるコルチゾール産生抑制に関与している可能性を示した。MKによるHSD3B2発現抑制作用は、ヒト胎児副腎皮質細胞のモデル系であるNCI-295細胞系でも解明を進めており同様の結果が得られている。以上、当該研究課題の成果として、MKの胎児副腎での重要な役割が明らかとなった。胎児副腎は高等動物においては胎児視床下部副腎-胎盤系の重要な部分を担っているにも関わらず、その細胞増殖、分化(層形成)、発育、機能発現のすべてにおいて未解明な点が多い。得られた成果を本研究分野の今後の礎としていきたい。
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