表皮では最終分化して角層となった細胞が脱落していく一方、幹細胞などの未分化な細胞が継続して増殖することでその恒常性が維持されている。乾癬や有棘細胞癌など多くの皮膚疾患では、この恒常性が崩れ細胞増殖と分化のバランスが傾いている。私たちは細胞表面に発現するレセプタータンパクNotchが表皮細胞の増殖を抑制して分化を促進する働きがあること、またその活性の異常が疾患の発症とつながることを明らかにした。しかしNotchが表皮細胞の分化を促進する一方で、表皮の中には未分化な細胞が残って継続して増殖する。この点をふまえるとNotchの働きを抑制する因子が存在して、Notchとその抑制因子とのバランスが表皮の恒常性を制御していると予想された。私たちが解析したところ、癌抑制遺伝子P53の類似遺伝子P51/P63がNotchの活性を抑制することが明らかになった。未分化な表皮細胞は、細胞増殖という性質とインテグリンの発現という2つの特異的な性質を有している。Notchは細胞増殖とインテグリンの発現の両方を抑制するが、P51はNotch活性を抑制してNotchの作用に拮抗した。さらにP51によるNotchの活性抑制の機序を明らかにするため両者の結合を調べたが、直接の結合は認められなかった。またNotchとP51が共同して特定の遺伝子の転写調節領域を制御することも観察されなかった。現時点ではP51はNotchの活性を間接的に抑制している可能性が高いと思われる。
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