ホスファチジルイノシトール3キナーゼ(PI3-K)のドミナントネガティブ体として働くΔp85(PI3-Kの触媒サブユニットp110とは結合できないように変異を加えたPI3Kの調節サブユニットp85)に対するアデノウイルスベクターを次の順序で作製した。まず、それぞれの蛋白に対するcDNAをシャトルベクターpAdCMVに組み込み、これをアデノウイルスゲノムのE1及びE3領域を欠くlarge fragment dl7001と共にリン酸カルシウム法で293細胞に同時にトランスフェクトした。293細胞はヒト胎児腎細胞がアデノウイルスのE1領域遺伝子によりトランスフォームして樹立された細胞株で、この細胞株においてはE1遺伝子が発現しているので、細胞内でシャトルベクターpAdCMVとlarge fragment dl7001が相同組み換え(homologous recombination)を起こすと、その組み換えウイルスはE1遺伝子を持たないにもかかわらず、293細胞では野性株と同様に増殖し、かつ目的遺伝子を保持している。目的遺伝子を保持する組み換えアデノウイルスをサザンブロットによりスクリーニング・確認後、精製操作を行い、最終的に高力価の組み換えアデノウイルスベクターを得た。各種色素細胞にΔp85蛋白に対するアデノウイルスベクターを感染させた後、ウエスタンブロットを行い目的蛋白の発現を確認した。さらにΔp85を発現した細胞をインスリン刺激した際にPI3-K活性化が抑制されることを確認した。一方、悪性黒色腫細胞が肝細胞増殖因子により浸潤能が亢進することを見い出し、この浸潤能亢進がΔp85により抑制されることから、悪性黒色腫細胞においてPI3-Kは浸潤能に重要な役割を果たすことが示された。
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