ヒト皮膚疾患における好中球の役割を解析するため、ヒト好中球に関しての研究をしている。今回、炎症性サイトカインや造血性因子に対する細胞運動とその時に活性化される細胞内シグナルについて明らかにした。また対照として、走化性因子を使用した。細胞運動や形態変化はビデオ撮影で観察した。そのため経時的な観察で可能であり、新しい発見があった。各々のサイトカイン刺激すると、数分間で形態変化および細胞運動が開始した。造血因子による刺激では形態変化と細胞運動、それに対して、炎症性サイトカイン刺激では極性は認められず、強い接着と伸展を示した。細胞内シグナルの解析のため、シグナル伝達に対する阻害剤を使用した。MEK/ERK阻害剤により、サイトカインによって誘導される偽足の形成と細胞の移動が阻害された。p38 MAPK阻害剤により、GM-CSFによって誘導される偽足の形成と細胞の移動は影響を受けなかったが、細長い突起状または棒状の特徴的な尾部が形成され、手鏡様の形態を示した。一方、TNFで刺激した細胞では、伸展が強く阻害され、明らかな極性を示し、直線的な移動が優位となって、移動距離も長くなった。PI3K阻害剤により、GM-CSFで刺激した細胞では、細胞移動が抑制された。一方、TNFで刺激した細胞では、伸展が阻害され、細胞の移動が亢進した。サイトカインによって誘導される好中球の接着は、インテグリン中和抗体により強く阻害された。様々なサイトカインが好中球に作用して、サイトカイン特異的に形態変化、接着、伸展および運動を誘導した。このことは皮膚疾患に関与する好中球の、様々な振る舞いを示唆している。また、これらの応答にMEK/ERK、p38 MAPK、PI3Kなどの細胞内シグナルおよびインテグリンなどの接着分子が関与を示していることを示した。
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