研究概要 |
メラノーマは,他のがん細胞と同様、多くの遺伝子異常の蓄積とともに,遺伝子発現の抑制を伴い,がん細胞自身が宿主免疫の攻撃から回避できる機構(治療抵抗性)と密接に関連している。最近注目さ乳ている抗がん薬の一つであるヒストン脱アセチル化阻害剤は,がん細胞選択的に異常な転写抑制を改善することができる。ヒトメラノーマ細胞におけるヒストン脱アセチル化阻害剤FK228はメラノーマ発生と進展に関わるRas-MAPKシグナル経路についてその制御因子Rap1の遺伝子発現回復を介して制御するとともに,さらに,メラノーマ抗原として知られるgp100/pmelの遺伝子発現を15倍も増幅することができた。実際,マウスB16メラノーマ細胞では,ヒストン脱アセチル化阻害剤FK228はED50=534 nMであり,p21Waf1/Cip1レベルの上昇とともに細胞周期の停止を誘導し,caspase-3/7活性を有意に増強した。この条件下では,B16細胞の表面にFasが誘導され,Fasリガンドの添加によって顕著参細胞死が誘導された。さらに,gp100を特異的に認識するT細胞受容体(TCR)を保有するPmelトランスジェニック(Tg)、マウスに由来するCD8^+T細胞をエフェクターとしたCTLアッセイにおいてもFK228存在化で顕著なB16細胞の殺傷効果が得られた。実際,C57BL/6マウスにB16細胞を接種した担がん動物実験において,FK228(2 mg/kg/day)を3日間前処置したマウスにPmel-Tgマウス由来の活性化リンパ球を養子移入すると,FK228前処置群で有意な腫瘍増大抑制効果が得られた。これらの結果は,ヒストン脱アセチル化阻害剤の利用はメラノーマ細胞の免疫学的な感受性を回復させる一つの方法であり,がん免疫療法における抗がん薬の併用や前処置として有効な手段となり得ることを示唆している。
|