研究概要 |
コラーゲンの過剰な沈着をきたすメカニズムとして最も重要なことはI型コラーゲンの過剰な産生であり,既に強皮症やケロイドで,それが真皮線維芽細胞(FB)におけるI型コラーゲン違伝子の転写レベルでの過剰産生によることが明らかにされている.これまでに私共は(1)直接皮膚の線維化をきたす強皮症,ケロイド,肥厚性瘢痕などの真皮FBを初代培養しそのI型コラーゲン遺伝子発現量を解析し,これらの疾患でその過剰発現する細胞株が存在することを,(2)In vitroの系でコラーゲン遺伝子発現を著しく抑制するTNF-αがα1(I)コラーゲン遺伝子の上流0〜107の部分を介してその転写を抑制することを明らかにしてきた.最近,新しいエリスロマイシン誘導体EM703のマウスのbleomycin誘導肺線維化を抑制する作用が報告された.私共も今年度は北里大学北里生命科学研究所の砂塚敏明氏との共同研究で,このEM703の正常および強皮症皮膚FBのcollagen遺伝子発現に対する影響を検討した.培養FBのcollagen産生を抗I型collagen抗体で,mRNAレベルをノーザンプロットで,遺伝子の転写をルシフェラーゼアッセイで,collagenプロモーター遺伝子への核蛋白結合をgel shift assayで解析した.EM703は正常FBに対してI型collagen産生,mRNAレベルを最大30%にまで濃度依存性に抑調し,I型collagen遺伝子の転写を30%に抑制した.この抑制は上流遺伝子を下流へ徐々にdeleteしても見られ,わずか133baseまでdeleteしても見られた.一方,-100のCCAAT-boxをGCAAGに置換変異すると約90%に抑制されたのみであった.しかしEM703添加で核のCCAAT-binding factor(CBF)の結合活性の低下はなかった.同剤は強皮症FBに対してもI型collagen発現を抑制した.EM703は正常および強皮症FBのI型collagenの転写を抑制し,それはCBFの結合活性低下なしにCCAAT-boxを介してなされると示唆された.
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