恐怖条件付けストレス(CFS)によって惹起されるすくみ行動を不安・恐怖の指標として、情動ストレスの分子生物・神経化学的機序を特に扁桃体機能との関連で検討した。 1.ラットにおける不安の動物モデルであるCFSとDNAマイクロアレイを用いて、扁桃体で変動する遺伝子発現プロファイリングを行った。CFSによって発現が変化する遺伝子(CFS関連遺伝子)は17個同定された。そのうち、SSRI投与により変化がキャンセルされる遺伝子(SSRI-CFS関連遺伝子)はneurotensinのみであった。 2.CFSに対する選択的セロトニン(5-HT)再取り込み阻害薬(SSRI)の抗不安作用について、脳内微小透析法により扁桃体ドパミン、5-HT細胞外濃度の変化を測定し、検討した。SSRIの扁桃体への局所投与は細胞外5-HT濃度を増加させ、同時にCFSによるすくみ行動を抑制した。SSRI投与下で、CFSは細胞外5-HT濃度を増加させ、消去過程でCFSを反復曝露すると細胞外5-HT濃度増加は減弱せず、さらに増強した。扁桃体の5-HTは不安を惹起するのではなく、不安を抑制する機能的役割をはたしていることが明らかになった。 3.CFSにおいて、条件付けとテストの間隔を2週間にあけることにより、SSRIの抗不安作用は減弱し、有意な抗不安作用をえるのに反復投与を要することが明らかになった。この実験条件のCFSは臨床的な不安障害に近い病態モデルといえる。この実験条件で、SSRI急性投与の効果を5-HT1A受容体アゴニストの併用が増強した。 4.グリシン・トランスポーター1阻害薬をCFSの条件付けとテストの前に投与し、CFSによるすくみ行動発現を解析したところ、グリシン・トランスポーター1阻害薬はCFSの獲得過程と発現過程の両過程を有意に抑制した。したがって、グリシン神経伝達の活性化は両過程に治療的に作用することが示唆された。
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