研究概要 |
アルツハイマー病(AD)の病態において、アミロイドβ(Aβ)蓄積が中心的な役割を演じることは広く認められており、神経細胞内Aβ蓄積が最早期段階の変化として注目されている。他方、AD脳の神経細胞に細胞分裂機構の異常活性化(cell cycle re-entry, CCRE)も観察されている。 本研究では、AD群10例および対照群5例の剖検脳から海馬、海馬傍回および後頭側頭回を含む組織切片を作製し、免疫細胞化学的に神経細胞内Aβと増殖細胞核抗原proliferating cell nuclear antigen (PCNA)を検出した。AD群では、Aβ1-42のC末端特異的抗体による神経細胞内Aβ42免疫反応が大型錐体細胞の細胞質で認められた。AD群のPCNA免疫染色では、一部の神経細胞核の陽性像がまれに認められたほか、大型錐体細胞でしばしば細胞質が陽性であった。連続切片を検討すると、神経細胞内Aβ42免疫反応が高度の錐体細胞ではPCNA免疫反応も陽性であった。対照群ではAβ、PCNAともに神経細胞内の免疫反応は微弱であった。 さらに、神経細胞におけるCCREとAβ蓄積の関連性を解明するために、細胞周期活性化因子c-Mycを過剰発現させるトランスジェニック(Tg)マウス(テトラサイクリン調節トランス活性化因子システムを前脳特異的プロモーター下で発現させるTgマウス、および、ヒトc-Mycをテトラサイクリンオペレーター・プロモーター下で発現させるTgマウスを掛け合わせた2重Tgマウス)を作製した。同マウス脳組織の免疫細胞化学的検討により、c-Myc過剰発現に伴うPCNA陽性海馬神経細胞において、神経細胞内Aβ42免疫反応の出現が観察された。 以上の結果から、AD脳の神経変性の早期段階において、神経細胞内Aβ42蓄積とCCREとが密接に関連している可能性が示唆された。
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