統合失調症の病態仮説として近年NMDA型グルタミン酸受容体の機能の低下が注目されている。NMDA受容体の活性は、グルタミン酸の存在下、コアゴニストであるグリシン、D-セリンにより調節され、D-セリンの代謝の異常によりNMDA受容体の機能に障害が生じる可能性がある。われわれこれまでD-serineの輸送に関わる遺伝子としてdsm-1(D-serine modulator 1)を単離した。本研究では、dsm-1のヒト相同遺伝子であるPAPST1(3'-Phosphoadenosine 5'-Phosphosulfate transporter 1)についてSNPs解析を行い、統合失調症、双極性障害との関連について検討した。データベース(NCBIおよびInternataional HapMap Project)より、PAPST1遺伝子とその上流3kbを含む領域で既に日本人における頻度の報告されているSNP7ヶ所について、統合失調症患者に関しては独立した2つのサンプルセット((1)患者281名、健常対象者289名、(2)患者237名、健常対象者233名)、双極性障害については、患者366名、健常対象者370名についてTaqMan PCR法により多型解析を行った。その結果、双極性障害において3つのSNP(rs575034、rs1875324、rs3832441)で、対立遺伝子頻度および遺伝子型頻度において、健常対照群との間に有意差を認めた。これらのうちひとつは、Bonferroniによる補正の後も、有意差が認められた。またハプロタイプ解析においても複数の組み合わせにおいて有意差が認められた。一方、統合失調症では7つのSNPsすべてについていずれも有意な関連は認められなかった。以上から、」PAPST1遺伝子が双極性障害の罹患脆弱性に関わる可能性が考えられた。
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