不安障害、特にPD患者においては、感覚刺激を繰り返し行うことによって生じる"慣れ(habituation)"が生じ難く、そのため例えばパニック発作のような内臓感覚刺激を生命的に危険な信号として誤って認識されてしまい、脳内に存在する恐怖ネットワーク回路が活性化してしまう可能性が指摘されている。そして、この様々な刺激に対する"慣れ"に関連した脳部位については、海馬や扁桃体を含む前部内側側頭皮質、特に扁桃体の関与が強く想定されているようである。 そこで初年度である平成17年度では、PDにおける重要な責任能部位とされる扁桃体の機能異常を調べる為に、"自律神経系における慣れ"の機能について検討を加えた。 我々は以前より、PD患者の自律神経系の調節異常、特に、血圧反射(baroreflex)の変動について、血圧と心拍数の最大相互相関係数(ρmax)を指標として検討を加えてきている。血圧反射とは、生体が日常的・自律的に行っているもので、例えば、血圧が少し低下するとその分心拍数が少し上昇するといったように、両者の関係を定常状態に維持するために自律性に働く反射性調節である。ρmaxは理論上0〜1までの値をとり、一般に安静時に高く、精神的・身体的負荷がかかった時に低下する。 我々は、PD患者と年齢・性をマッチさせた正常被験者にジェットコースターの3次元ビデオ映像(5分間)を2回繰り返して視聴してもらい(1回目と2回目の間には安静目的で環境ビデオを視聴)、慣れがρmaxおいても生じるかどうかを調べた。結果は、PD群では2回目の視聴時のρmaxの変動がNC群に比べて大きく、PDでは映像刺激に対する自律神経系の慣れが不十分であることがわかった。不安と慣れに関する研究はまだ十分になされてはいないのが現状で、来年度は、前頭葉でのNIRSの測定も行い、より高次中枢との関連性についても調べるつもりである。
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