状況刺激に関する感覚入力は、視床前部を通り扇桃体の外側核に入り、そこで線維を換えて扁桃体の中心核に至る。大脳皮質から扁桃体への求心性の入力によって、通常、内臓性感覚情報は大脳皮質で正しい意味づけがなされ、適切な対処が行われる。一方、パニック障害(PD)においては、この大脳皮質での認知処理過程に何らかの欠陥があり、不安の生理的徴候を"破滅的な"ものと誤解し、扇挑体中心核のネットワークを活性化させてしまう。PDでは、皮質性の感覚情報の調節だけでなく、前述した脳幹性の感覚情報の制御にも障害があり、かつ皮質性と脳幹性の協調が上手く行かないために、パニック発作が頻発し、様々な回避行動が生じるものと考えられている。 我々は以前より、PD患者の自律神経系の調節異常、特に、血圧反射(baroreflex)の変動について、血圧と心拍数の最大相互相関係数(ρmax)を指標として検討を加え、PD患者の自律神経系の異常について報告してきた。今回我々は、新しい自律神経機能検査であるρmax(血圧と心拍数の最大相互相関係数)と非侵襲的に大脳皮質の活動を捉えることが可能な近赤外線分光法(NIRS)を用いて前頭葉の血流を測定し、両者の関連性を見つけると共に、PD患者でこの関連性の異常が存在するかどうか、検討した。 対象者は16名の寛解期のPD患者と、年齢・性別をマッチさせた健常対照者(NC)である。扁桃体を刺激するとされている不快(嫌悪)刺激のスライドと風景スライドを交互に30秒ずつ5回提示し、ρmaxと両側前頭葉の血流をそれぞれ経時的に測定した。 結果は、PD患者では不快スライド提示時に風景スライドに比べρmaxと前頭葉の血流との相関係数が有意に低下したが、NC群では不快・風景スライド共に両者の関連性は同等であった。 以上の結果から、PDにおける皮質性の感覚情報の制御異常を示唆したものと思われる。
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