状況刺激に関する感覚入力は、視床前部を通り扁桃体の外側核に入り、そこで線維を換えて扁桃体の中心核に至る。大脳皮質から扁桃体への求心性の入力によって、通常、内臓性感覚情報は大脳皮質で正しい意味づけがなされ、適切な対処が行われる。一方、パニック障害(PD)では、この大脳皮質での認知処理過程に何らかの欠陥があり、不安の生理的徴候を"破滅的"と誤解し、扁桃体中心核の不安・恐怖ネットワークを活性化させてしまう。また、扁桃体は、感覚刺激を繰り返すことで生じる"慣れ(habituation)"を生じさせる機能を有する。 我々は以前より、PDの血圧反射について血圧と心拍数の最大相互相関係数(ρmax)を指標として検討し、PDの自律神経異常を報告した。 まず、PDの責任脳部位である扁桃体の機能異常を調べる為に、"自律神経系における慣れ"について検討した。PD患者と年齢・性をマッチさせた正常被験者(NC)にジェットコースターの3次元ビデオ映像(5分間)を2回繰り返して視聴させ、ρmaxを測定した。結果は、PD群では2回目の視聴時のρmaxの変動がNC群に比べて大きく、PDでは映像刺激に対する自律神経系の慣れが不十分であることがわかった。 次に、ρmaxと非侵襲的に大脳皮質の活動を捉えることが可能なNIRSを用いて両側前頭葉の血流を測定し、両者の関連性を見つけると共に、PD患者でこの関連性の異常が存在するかどうか、検討した。PD群とNC群に対して、扁桃体を刺激させる不快(嫌悪)刺激のスライドと風景スライドを交互に30秒ずつ5回提示し、ρmaxと両側前頭葉の血流をそれぞれ経時的に測定した。結果は、PD群では不快スライド提示時に風景スライドに比べρmaxと両側前頭葉の血流との相関係数が有意に低下したが(特に左側)、NC群では両スライド共にその関連性は不変であったことから、PDにおける皮質性の感覚情報制御の異常が存在する。
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