本研究では、人口10万の地域での乳幼児健康診査を利用して、自閉症・広汎性発達障害の発生頻度について検討することを目的とした。今回の研究の対象としたのは、18歳までの人口移動が少なく、1年間に発生する精神遅滞ないし広汎性発達障害の可能性のある対象数が全て診察可能な範囲に収まっているA市である。A市とその近郊は、人口約10万で年間出生数が約1100名であり、精神遅滞ないし広汎性発達障害の発生数が約40名と推測され、精神遅滞を含めて全例直接評価を行うことが可能であった。 研究期間内に、確定診断が可能となる年齢群の乳幼児健康診査のデータを検討したところ約2000名が候補となった。このそれぞれについて、1カ月、2カ月、4カ月、7カ月、12カ月、18カ月、24カ月、36カ月の各検診時のデータが存在していて、このうち行政側で匿名化されていて入力が可能であったのが、532名であった。 何らかの発達上の問題があって、療育の機会を設けられた児童は34名で6.5%であり、このうち自閉症・広汎性発達障害の児童は6名(1.1%)であり、他に特定できない広汎性発達障害の児童を含めるとその数は10名(1.9%)に達し、近年他の都市で報告されている頻度と同様に1%を超えていた。残りは、情緒的問題、注意欠陥多動性障害のハイリスク群と予想される行動症状、ダウン症候群などであった。 当初計画した対象者数の半数以下しか検討することができなかったため、発見できた広汎性発達障害群の数が乏しく、残念ながら、当初予定していた広汎性発達障害群内での比較検討は困難であった。
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