裁判において精神的被害を正しく評価するために、被験者の意識的あるいは無意識的な意図によって症状が過大に報告されることの少ない質問紙を開発し、心的外傷を反映する生理学的指標(以下、「生理指標」)と組み合わせることによって、被害者の陳述の信頼性・信憑性を評価法する方法を開発することをめざした。今回は、MMPIに着目した。MMPIとその下位尺度であるPK尺度は、PTSDに関して非特異的な設問のみからなるにもかかわらず、PTSD診断テストとして有用であることを示した。 対象は、精神科診療所AクリニックにPTSDの疑いで他機関から紹介受診となった45名(男性が15名、女性30名)。平均年齢(Ave.±SD)は、男性35.0±12.5、女性36.6±16.0だった。平均年齢に有意の男女差はなかった。全員に初診時にMMPIを施行するとともに、初診から1か月以内に構造化面接(CAPSあるいはM.I.N.I.のいずれか)を行いPTSDの有無を診断した。初診時のMMPIからPK得点(埋め込み型PK得点)を算出した。 構造化面接によって27名(男7名、女20名)がPTSDと診断された。PTSD例の平均年齢(35.7±10.9)と非PTSD例(38.9±10.6)では有意差を認めなかった。 男女別のPK得点(埋め込み型)は、男35.0±12.5、女36.6±11.0で、有意な性差は認めなかった。PTSD例のPK得点(埋め込み型)は21.1±8.8で、これは非PTSD例13名の12.6±10.4に比べて5%水準で有意に高かった。区分点を17/18に設定すると、感度75%、特異度65%であった。 次に、MMPIの標準下位尺度の単純1次線形結合によるPTSD診断を試みたところ、PTSD診断を最も高率に予測し得た式は。D+Pd+Sc-Pa-Ma-Si(≡M-PTSD Index)であった。このM-PTSD Indexは、PK尺度とほぼ同程度の峻別力を有していた。
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