研究概要 |
研究課題1)拘束ストレスによる母子分離ストレス暴露ラット海馬のBDNF mRNA発現におよぼすBDNFプロモーター領域のヒストン修飾の検討:雄性SDラットに母子分離(生後2-9日目まで1h/日;NI)を施し、成熟後(生後90日目)に急性拘束ストレス(AIS)を負荷し、海馬を摘出した。これを対象にBDNF遺伝子プロモーター上のP1,P2,P3,P4領域のヒストンH3,H4のアセチル化を、EpiQuik Chromatin Immunopreciptation Kitとreal-time PCR法を用いて解析した。その結果NI(-)群では、AISによってH3ヒストンのP1,P3,P4領域で、アセチル化の有意な減少がみられた。NI(-),AIS, NI, NI+AISの4群でBDNFプロモーター領域のヒストン・アセチル化を計測した結果、H3ヒストンのP3領域での有意なアセチル化の減少が、NI+AIS群で得られた。 研究課題2)拘束ストレスによる母子分離ストレス暴露ラット海馬のinsulin-like growth factor(IGF-1)およびIGF-1R mRNA発現におよぼす転写調節機能の変動:上記同様の動物処置を行い、海馬でのIGF-1遺伝子プロモーター領域のGH response element内のStat5b結合を、EpiQuik Chromatin Immunopreciptation KitとRT-PCR法を用いて解析した。その結果、特に4群間で有意なIGF-1 HS7,5'distal regionでのStat5b結合に違いは検出されなかった。同様にangiotensin II-induced IGF-1R遺伝子プロモーター領域のNF-kB結合を、EpiQuik Chromatin Immunopreciptation KitとRT-PCR法を用いて解析した。その結果、NI+AIS群ではNF-kBのサブユニットであるp65,p50の結合が有意に減少していたが、NIだけでは結合に変化はなかった。 上記の研究成果は、成熟期急性拘束ストレスによるBDNF mRNAの発現変化に、ヒストン・アセチル化の減少の変化が関与していることを示している。同時に幼少期の不遇な体験が、成長後のストレス暴露に伴う遺伝子発現変動に対して転写調節機能の制御を介して関与していることを示している結果と思われる。
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