研究概要 |
我々は、青斑核(LC)に存在するノルアドレナリン(NA)含有神経系、視床下部室傍核(PVN)に存在するCRF含有神経系および介在アセチルコリン含有神経系からなるクローズドネットワークが、PVNのNA遊離に対してポジティブフィードフォワードループとして作用する結果、持続性高コルチゾール症を引き起すというモデルを想定した。この仮説を検証するために麻酔下のラット脳室内にCRFを投与し、血中コルチコステロンとの関連でPVNにおけるNA遊離を脳マイクロダイアリーシス法を用いて薬理学的に解析し、またPVN、LC、および介在アセチルコリン含有神経系の神経活性化を最初期遺伝子産物c-Fosを用いて免疫組織化学的に解析し、以下の実験成績を得た。(1)脳室内投与したCRFは用量依存的に(0.5,1.5,3.0nmol/animal)PVNのNA遊離を増加させた。以下の実験には1.5nmolのCRFを脳室内投与した。(2)CRFによるPVNのNA遊離増加は、CRF_1受容体遮断薬CP154,526の脳室内前処置によって抑制された。(3)CRFによる血中コルチコステロン増加は、α受容体遮断薬フェントラミンの脳室内前処置によって抑制された。(4)CRFによるPVNのNA遊離増加および血中コルチコステロン増加は、ニコチン受容体遮断薬ヘキサメトニウム、さらにα_3β_2選択的ニコチン受容体遮断薬αconotoxin MIIによって抑制された。(5)CRFはLCおよびPVNにおいて強いcFos発現を誘導したが、脳幹部のA_1、A_2領域では認められなかった。(6)CRFによるLCおよびPVNにおけるcFos発現は、CP154,526、フェントラミンおよびヘキサメトニウムの脳室内前処置によって抑制された。(7)CRFによって活性化される神経細胞の蛍光二重免疫染色による解析から、PVNにcFosおよびアドレナリンα_1受容体を共発現する神経細胞、LCにcFosおよびドパミンβ水酸化酵素あるいはα_3ニコチン受容体サブユニットを共発現する神経細胞、橋背外側被蓋核にcFosおよびコリンアセチルトランスフェラーゼを共発現する神経細胞の存在が明らかとなった。以上の実験成績から、脳室内投与したCRFによる血中コルチコステロン増加作用には、(1)脳内CRF_1受容体賦活を介して活性化したLCからPVNに投射するNA含有神経系がPVNにおいてNAを遊離し、遊離したNAがPVNにおけるアドレナリンα_1受容体を賦活すること(2)LCにおける脳内ニコチン受容体、特にα_3β_2ニコチン受容体を賦活すること、が関与することが明らかとなった。さらに、直接的な証明には至らなかったが、橋背外側被蓋核のアセチルコリン含有神経系がLCからPVNへ投射するNA含有神経系の調節に何らかの役割を有する可能性が推測された(投稿準備中)。
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