1.情動の発達とストレス脆弱性の神経生物学的基盤を明らかにするために、AMPA/kainate型グルタミン酸受容体によるラット前頭前野カテコールアミン系活動の調節機構について、脳内微小透析法を用いて検討した。その結果、非定型抗精神病薬(クロザピン、およびオランザピン)による前頭前野に選択的なドパミンおよびノルエピネフリン遊離促進作用がAMPAの同時投与により増強することを見出した。この効果は、AMPA受容体の非競合的アンタゴニストSYM2206により消失したことから、非定型抗精神病薬が、AMPA受容体の脱感作を抑制することにより、同受容体の脱分極を延長して前頭前野カテコールアミン系を賦活することを示唆しており、AMPA受容体の脱感作阻害を指標とした新しい抗ストレス機序を提唱した。 2.Matthewsらの方法に従い、子ラット(Wistar系)に生後5〜20日目に母子分離ストレスを反復して与え、生後42〜56日目に行動観察を行ったが、行動上は対象群と比較して有意の変化は見出されなかった。作成した母子分離ストレス負荷ラット数が少なく、脳内微小透析法による実験により有意の結果を得るには至らなかった。母子分離ストレス負荷の影響には、系統差、個体差のみならず、養育環境が大きく関与していることが示唆され、実験条件を厳重に統制することが必要と考えられた。そこで、より養育環境を制御しやすいマウスを用いて同様の実験について予備的な検討を行った。そのために、微小脳内透析法を用いてマウスの脳内モノアミンおよびグルタミン酸レベルをリアルタイムにモニターする実験系を確立した。
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