1.情動の発達とストレス脆弱性の神経生物学的基盤を明らかにするために、ラット中脳-皮質系ドパミンニューロン系に対するドパミンD2受容体パーシャルアゴニスト型新規抗精神病薬、aripiprazoleの影響について、脳内微小透析法を用いて検討した。ドパミンニューロンの起始核である腹側被蓋野へaripiprazoleを局所投与すると、神経終末が分布する前頭前野におけるドパミン遊離が抑制された。この所見は、D2受容体フルアゴニストの効果と類似していたことから、aripiprazoleが腹側被蓋野のドパミンニューロンにアゴニスト作用を及ぼすことをin vivo下に証明した。また、aripiprazoleを前頭前野に直接投与すると、同部位のドパミン遊離を促進されたが、この効果は5-HT1A受容体アンタゴニストの前処置により拮抗された。以上の結果から、aripiprazoleは腹側被蓋野のD2受容体と前頭前野内の5-HT1A受容体の双方を介して、それぞれ異なる影響を中脳- 皮質系ドパミンニューロン系に及ぼしていることを明らかにした。 2.幼年期の心理的ストレスではコルチコトロピン放出因子(CRF)が上昇し、発達段階のモノアミンニューロン系の構築に永続的な影響を与えると推測されることから、予備的な実験として成熟ラットを用いて中脳-皮質ドパミンニューロン系に対する選択的なCRF1受容体アゴニストの効果を検討した。しかしながら、CRF1受容体アゴニストの腹側被蓋野への投与は前頭前野ドパミン遊離に有意の影響を与えなかった。CRF1受容体の感受性は幼若期には亢進している可能性があり、さらに週齢の若いラットを用いて、同様の検討を行っている。 3.心理的ストレスに対する脆弱モデル動物として脳内に特異的に発現する蛋白のトランスジェニックマウスを用い、その神経伝達物質の脳内動態をin vivo下に解析する実験系を確立し、予備的な検討を行った。
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