研究概要 |
放射線と腫瘍血流(TBF)遮断との組合せが、放射線療法の治療成績向上につながる根拠を示すために、腫瘍微小循環に関係するパラメータ(TBF、腫瘍組織への物質移行性、クリアランス、腫瘍サイズ、腫瘍間質液圧)のX線照射(10Gy)後の変化を解析し、照射後にTBF遮断剤AC7700(10mg/kg)を静脈内投与した時の効果を検討した。吉田腹水癌LY80とAH109A皮下腫瘍のTBFは、いずれも照射2日後から有意に増量し始め、3,4日後には照射前の2〜2.5倍になった。静脈内投与したFITCデキストラン(m.w.4000)の腫瘍組織移行性は、照射3日以後著しく高まった(蛍光強度の上昇と組織内濃度がピークに達するまでの時間の短縮)。FITCデキストランの腫瘍組織からのクリアランスは照射1日後から有意に速くなり、4日後に最大となった。腫瘍間質液圧は腫瘍サイズの縮小とほぼ平行して低下した。照射3,4日後にTBFが著明に増量し、微小循環パラメータが改善するのは、この間質液圧低下により、腫瘍血管への圧迫がとれたことが大きな要因と思われる。AC7700は照射後のどの時点からでも、この増量したTBFを完全に遮断した。LY80の皮下腫瘍モデルを用いた治療実験では、照射とAC7700との併用群が、照射単独群、AC7700単独群に比べ、腫瘍増殖と再増殖を有意に抑制した(P<0.001)。一方、10Gy照射をしたLY80細胞を腹腔内に移植した腹水癌モデルには、AC7700の効果は認められなかった。このことは、固形腫瘍で見られる併用効果は、AC7700の癌細胞への直接作用ではなく、TBF遮断腫瘍血管破断を介した間接作用によるものであることを示している。照射後に活性化する腫瘍循環機能を破綻させることが、癌の再発を抑制するために重要と結論することができる。
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