研究概要 |
干渉計を用いた位相X線CTは、被射体を透過したX線の吸収差ではなく、微妙な屈折差を捉えるため、生体構成元素H,C,N,Oに対する感度が透過法より約千倍高く、従来の透過X線では描出できない生体軟部組織、癌、繊維組織、壊死などを無造影で鮮明に弁別できる。我々は、ヒト癌組織や小動物の摘出臓器(肝、腎、脾臓等)を対象に、空間分解能10-30μmで組織の微細構造描出に成功した。また、約30μm径までの血管を3次元像として鮮明に抽出できるため、血管網や血管密度の観察が可能である。本研究の目的は、これまで開発してきた位相X線CTを用い、病的モデル(脳腫瘍,虚血心疾患,心筋症)を対象にし、摘出した標的臓器の撮影を行い、各々の組織内の微細構造(病的変化を含めた)や血管構造を定量的に3次元解析する手法を開発することである。 本年度は、予備実験として、固定した正常及び脳担癌マウス、虚血性心疾患モデルを作製した。高エネルギー加速器研究機構の放射光科学研究施設のBL14C1で、これまでの科学研究費補助金及び科学振興調整費により開発した位相X線CT装置を用い、摘出した脳や心臓の位相X線CT撮影を行った。造影剤を使用せず、従来の手法では得られない約30μmの高い空間分解能を有す血管像が本法により得られ、脳腫瘍、腫瘍の圧迫による脳室の偏移や拡張、血管結札により生じた心筋壊死巣、代償性肥大などの心筋構造の変化が鮮明に描出された。血管を抽出するための画像解析を加え、脳血管、冠状動脈が明瞭に描出できた。現在定量的な解析のためのソフトウェア開発を行っている。更なる微細血管分枝解析には、干渉縞の微細な揺れを無くすための高速化撮影が必要なことも明らかとなってきた。
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