I)目的 放射線を照射すると、細胞内DNAの二重鎖結合に損傷が発生し、その修復には主に非相同性末端結合(NHEJ : Non-Homologous End Joining)が関与している。NHEJで働く蛋白、Ku80を欠損した細胞株では、二重鎖結合損傷を修復することができず、放射線感受性が増加する。そこで、腫瘍細胞内のKu80発現をsiRNAで選択的に抑えた後に放射線を照射し、腫瘍の種類および照射後生存率に関係なく放射線感受性を増強させられるか、検討した。放射線治療の有効性を高めること、また照射法の工夫による放射線治療適応拡大が研究の目的である。 II)H17年度の結果 7種類の癌細胞株(肺癌、食道癌、膵臓癌、前立腺癌、子宮頸癌)にKu80siRNAを導入し、ウエスタンブロットにてKu80蛋白発現抑制を確認した。Ku80siRNA導入後の放射線照射による生存率の検討では、Ku80siRNAを導入すると、元の親株より2Gy照射後の生存率が、10-26%減少した。γ-H2AX染色の結果から、生存率の減少はDNA損傷の修復障害であることが証明された。 III)H18年度の結果 肺癌細胞株H1299をヌードマウス皮下に移植し、生育した腫瘍にKu80siRNAを局注後、放射線照射を施行した。1回導入、1回照射の系では、照射後6日まで腫瘍縮小傾向を認め、以後は増大傾向に転じた。腫瘍縮小率を無治療群と比較すると、Ku80siRNAを局注した群の腫瘍縮小率は56%と最も大きく、放射線単独群の72%よりも放射線感受性の増強が見られた。また、2回導入、5回連日照射の系では、照射後32日の腫瘍体積は放射線単独群の56%であり、腫瘍の増殖抑制効果が見られた。腫瘍内のKu80発現をsiRNAで抑制し放射線を照射すると、腫瘍の放射線感受性が増強し、腫瘍増殖抑制効果がみられることがin vitro、in vivoで確認された。Ku80siRNAと放射線照射を用いた合併療法は、放射線治療有効性の向上に寄与する可能性が示唆された。
|