研究概要 |
アルツハイマー病を核医学的手法により客観的に診断するには、アルツハイマー病の神経化学的変化等を鋭敏に控える放射性核種標識分子イメージング剤の開発が必要である。我々は以前より、アルツハイマー病で最も変化があるとされるアセチルコリン神経系に注目し、その中でもアセチルコリン神経シナプス前終末部に存在するアセチルコリントランスポーター(VAChT)の変化を画像化する分子イメージング剤の開発研究を進めてきた。また、シグマ受容体は学習/記憶メカニズムと密接に関係があるとされている。また、シグマ受容体は老齢化に伴い増加する傾向があり、シグマ受容体は老化による、精神神経的な異常に対して、正常に保とうと強く働いている可能性がある。したがって、シグマ受容体分子イメージングにより、アルツハイマー病を含む痴呆や種々の精神神経疾患の進行度(重症度)が把握できることが期待される。本研究では、アルツハイマー病の神経化学的変化等を鋭敏に捉える放射性核種標識分子イメージング剤の開発をめざし、PET用のポジトロン核種である炭素-11(11C)で標識したVAChT及びシグマ受容体分子イメージング剤の開発を検討した。まず、我々は、ベサミコール類がVAChTとシグマ受容体に高い親和性を有していることから、それぞれVAChTやシグマ受容体にのみ高い親和性を有するベサミコール類の合成を検討した。その結果、ポジトロン核種であるC-11の導入を容易にするため、ベサミコールのオルト位にメチル基を導入した(-)-ortho-imethylvesamicol((-)-oMeVES)とベサミコールのパラ位にメチル基を導入した(+)-para-methylvesamicol((+)-pMeVES)がそれぞれVAChTとシグマ受容体に選択的に高い親和性を有する化合物であることがわかった。合成はそれぞれ2-bromobenzaldehyde及び4-bromobenzaldehydeを出発原料として、同じ合成経路を経て、10行程で目的の(-)-oMeVES及び(+)-pMeVESが通算収率2-5%で合成できた。構造はNMR,質量分析、元素分析により確認した。(-)-oMeVESはVAChTに対してベサミコール(ki=4.4nM)と同様に高い親和性(Ki=6.7nM)を示した。また、(+)-pMeVESはシグマ受容体(σ-1)対して、高い親和性(σ-1(Ki=3.0nM),σ-2(Ki=40.7nM))を示した。 以上のことから、メチル基を有する(-)oMeVESや(+)pMeVESはポジトロン核種であるC-11で容易に標識可能であり、それぞれPET用のVAChTやシグマ受容体分子イメージング剤のリガンドになると考えられた。
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