呼吸器画像診断を例として、画像診断の学生実習の在り方について検討した。特に留意したのは標本像の扱いであった。放射線画像と標本像の組み合わせで実習を行う有効性については必ずしも明らかでないと考えたからである。 【実習環境の整備】放射線科研究室内に専用の実習室を設けた。広さは約3m^2で、6人の学生が自由に移動可能である。大型のシャオカステン3台と高輝度OHP2台を画像供覧に用いた。専用の部屋なので、学生は実習に集中出来た。 【教育資源】標本像については、研究代表者、伊藤の30年に亘り蓄積された中から選択した。放射線画像については、標本像が揃っている例を中心に、診断の確定している代表的疾患例を選択した。 【実習の方法】実習は6人を1グループとし、放射線科をトータルで3週間ローテートした。実習回数は週3-4回、1回3時間を原則とした。学生1人が呼吸器画像診断の実習を約30時間受ける事となった。実習はミニ講義、討論、個人的読影、まとめの作業などを組み合わせて行った。 【実習上の留意点】標本の表す学術用語の正確な使用を求めた。知らない場合は直ちに復習させた。その上で、諸構造が放射線画像にどう反映しているかを的確に口述させた。口述内容が不十分な場合は、それを否定せずに、関連の質問を複数用意し、これらに答える事により、自然と正答に至るように誘導した。実習時間が比較的多いので、従来より不十分と考えられている正常像の理解に充分な時間を取った。 【実習の学生による評価】共通する実習の感想を以下に整理する。画像診断はテキストにあるパターンを覚えることでマスターするものであると誤解していた。正常像ですら、標本の知識無しには読影出来ない事が分かった。何気なく見ていた像が、意味あるものである事が分かった時は感動した。3時間が休憩無しでも直ぐに経った。 【結論】標本像と放射線画像の組み合わせによる実習は大きな効果を生んだ。学生の個々の地道な進歩を前提とするため、実習の質と量共に充分なものを用意する必要があった。
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