研究概要 |
本研究では、腫瘍細胞の放射線抵抗性に関わる遺伝子発現を、新しい遺伝子制御技術siRNAを用いて抑制することによって、放射線抵抗性を克服し、抗腫瘍効果を増強できるかどうか、を調べる。腫瘍細胞の放射線抵抗性の原因として、低酸素環境や、放射線照射後に誘導されるアポトーシスに関わる遺伝子異常が報告されている。我々は、低酸素下で発現が誘導されるhypoxia-inducible factor HIFおよび血管内皮増殖因子VEGFと、アポトーシス抑制機能をもつbcl-2を標的遺伝子とした。本研究では単層培養腫瘍細胞とともに、多細胞固形腫瘍モデル、spheroid(直径数百μmの細胞塊)を用いる。細胞周期分布や接着因子の発現等,腫瘍細胞が生体内で立体構造をもったときの特性を備え、また中心に低酸素分画を有する。低酸素関連遺伝子の実験系には、単層培養細胞と比較して、より生理的な慢性低酸素状態下での変化を観察できる有用なモデルとなる。 17年度の研究実績 1 単層培養細胞を用いた実験 1-1 単層培養腫瘍細胞におけるBcl-2, HIF, VEGF遺伝子発現の測定 実験には肺扁平上皮癌細胞SQ5を使用した。定量的PCRおよびウエスタンブロット法で上記遺伝子の発現を確認、定量した。1-2 siRNAの導入実験 HIFおよびVEGF siRNAを上記細胞に導入し、発現抑制を定量的PCR法で測定し、実験条件を確立した。1-3 放射線照射単独およびsiRNA単独処理による殺細胞効果の測定 放射線照射による細胞生残率をコロニー法で測定した。siRNA単独処理による殺細胞効果およびsiRNAによる放射線増感効果は現在、実験中である。 2 spheroidを用いた実験 2-1 固形腫瘍モデル多細胞spheroidの作成と、HIF, VEGF遺伝子発現の測定 上記SQ5細胞を用いて、spheroidを作成した。上記遺伝子発現について定量的PCRおよびウエスタンブロット法で確認した。対照として、単層培養細胞(1-1)およびヌードマウスに移植したSQ5腫瘍も併せて解析した。その結果、spheroidは単層培養細胞や動物腫瘍と比較してVEGFおよびHIFが高い傾向にあり、今回の実験モデルとして、ふさわしいことが分かった。またspheroidの放射線照射による細胞生残率をコロニー法で確認したところ、単層培養細胞とほぼ同程度であった。2-2 Spheroid細胞へのsiRNA導入実験 siRNAをspheroidに直接導入する条件を確立するために、蛍光標識コントロールsiRNAを用い、flowcytometryで細胞への導入効率を測定する実験を行った。単層培養細胞と同じ条件では、spheroid細胞への導入効率は低く、さらなる検討を行っている。今後はsiRNAをspheroid細胞に効率的に導入する方法を確立し、その遺伝子発現抑制効果を確認したのち、siRNAによる放射線増感効果を調べる予定である。
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