研究概要 |
重粒子線の生物学的特徴は直接DNA2重鎖切断を引き起こす直接効果が主体であり、放射線抵抗性腫瘍に特に有用である。重粒子線治療が今後さらに普及するためには局所進行癌が対象となりその場合、化学療法との併用が必要となる。そこで本研究では重粒子線に抗癌剤を併用した際の増感効果の有無を、p53ステータスの異なるラット卵黄嚢由来で同一細胞由来の放射線異感受性腫瘍を用いて検討し、その機序について分子生物学的に解析した。重粒子線は炭素線290MeV/μでmono peak(LET 80keV/μm)を用いて照射実験を施行した。1)重粒子線の照射効果:X線照射で明らかに異なるNMT-1(放射線高感受性、野生型p53)、NMT-1R(放射線抵抗性、変異型p53)の照射効果は生残率軸線の肩が消失し、RBEがNMT-1、MNT-1Rでそれぞれ1.4、2.2であり重粒子線(炭素線)照射の場合、p53ステータスの相違に関わらず同等であった。2)重粒子線・抗癌剤の併用効果:X線照射で増感がみられ、固形癌に汎用されるcisplatin(DNA架橋形成)、etoposide(topoisomerase II阻害剤)でIC50量で併用実験を行ったところ、cisplatinは相加効果のみであったが、etoposideではNMT-1Rにおいて相乗効果(Doの減少)が認められた。この増感様式はx線の場合と異なった(X線の場合、生残率曲線の肩が消失)。3)増感効果のメカニズム:炭素線照射(1,3,5Gy)照射後の12,24,48時間後にアポトーシスの出現頻度ならびに細胞周期変動のG2ブロックの程度を解析したところ、炭素線単独群ならびに炭素線・抗癌剤併用群でいずれの細胞においても差異は認められなかった。よって放射線抵抗性NMT-1Rにおけるetoposide併用での増感効果は細胞死の形態の相違では説明できず、今後DNA修復能等の検討が必要と考えられる。
|