シグマレセプターは、種々の腫瘍細胞に高密度に発現し、腫瘍の形成や細胞分裂に大きく関与している。また、シグマレセプター作用薬剤は、腫瘍細胞のアポトーシスを誘導し、腫瘍細胞増殖抑制作用を持つことが明らかとなってきた。従って、シグマレセプターは、これを分子標的とする新たな作用機序を持つ腫瘍の新規治療薬ならびに診断薬開発のターゲットとして有望であると考えられる。 本年度は、物理的特性が優れている上に、臨床の場における繁用性に特に適している金属性放射性同位元素であるTc-99m標識分子イメージング薬剤の開発を目指して、新規化合物のドラッグデザイン、合成、および実験動物を用いた基礎的検討を実施した。母体リード化合物には、これまで検討してきたo-BONを用い、金属性核種であるTc-99mと安定な結合を可能にするキレート形成部位として、MAG3の部分構造と同じN3S1型配位子構造を採用した。さらに、両者を繋ぐリンカーとしては、C-N-C結合およびC-O-C結合を持つ数種の化合物を新規に合成した。得られた化合物はいずれもTc-99mで効率よく標識できること、また、インビトロおよび実験動物におけるインビボで、Tc-99mが解離することなく安定に結合していることを確認した。新規標識化合物のシグマレセプターに対する結合親和性は、o-BONに比べてC-N-C架橋を持つ化合物は大幅に低下した。一方、C-O-C架橋を持つ化合物の親和性は比較的良好であった。さらに、新規標識化合物は、投与後肝臓等の臓器に多く集積するものの、あらかじめ移植した腫瘍に集積し、画像診断が可能であり、分子イメージング薬剤として有望であることを見出した。
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