研究概要 |
進行した固形癌は不完全な血管構築による還流不全のために、低酸素・低栄養・アシドーシス等の内部環境をもつ部分(低酸素領域)が少なからず存在する。そのような劣悪な環境下で一部の癌細胞は可逆的に分裂を停止して生存しており、放射線治療抵抗性の源となっている。mTOR (mammalian target of rapamycin)シグナルは十分な酸素・栄養状態では活性化して癌細胞の増殖と生存を促進するが、酸素やエネルギー源の欠乏では負に制御されている。昨年度、低酸素耐性の膵臓癌細胞を用いたin vitro実験系で、IGF刺激によりmTORシグナルを増強させると放射線感受性が上昇すること、PI3K, mTORシグナルを阻害剤(LY294002,rapamycin)で抑制したところ、放射線感受性が低下することを明らかにした。平成18年度はこの感受性上昇の分子機構について検討した。無酸素状態ではIGF刺激は小胞体ストレスの増強により劇的なアポトーシスを誘導する(Cancer Research, in revision)。一方、低酸素(1%酸素)下でIGF刺激しても細胞死は誘発されないが、小胞体ストレスは増強し、この小胞体ストレスが低酸素1GF刺激での放射線感受性増強に必須であることを明らかにした(癌学会で発表、論文準備中)。現在小胞体ストレスと放射線感受性をつなぐ分子機構の解析を行っている。本研究期間中にはin vivoの低酸素領域でmTORシグナルを活性化する方法が得られなかったので、in vivoでのmTORシグナル増強による放射線感受性の検討は今後の課題として残った。TAT-ODD蛋白による低酸素耐性細胞の標的化については、コントロールのTAT-ODD蛋白(TAT-ODDドメインのみ)がin vivoで抗腫瘍効果を示したことから、使用を断念した。
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