研究概要 |
進行した固形癌は不完全な血管構築による還流不全のために、低酸素・低栄養・アシドーシス等の内部環境をもつ部分(低酸素領域)が少なからず存在する。そのような劣悪な環境下で一部の癌細胞は可逆的に分裂を停止して生存しており、放射線治療抵抗性の源となっている。mTOR(mammalian target of rapamycin)シグナルは十分な酸素・栄養状態では活性化して癌細胞の増殖と生存を促進するが、酸素やエネルギー源の欠乏状態では負に制御されている。本研究は低酸素下でのmTORシグナルが放射線感受性に及ぼす影響を分子生物学的に明らかにすることを目的とした。 低酸素耐性の膵臓癌細胞株を用いたin vitro実験系を用いた。IGF刺激によりmTORシグナルを増強させると放射線感受性が上昇した。さらに、阻害剤(LY294002,rapamycin)でPI3K, mTORシグナルを抑制したところ、放射線感受性が低下したことから、低酸素下ではPI3K, mTORのシグナルは通常酸素下とは異なった役割をするものと考えられる。また、我々は無酸素状態ではIGF刺激は小胞体ストレスの増強により劇的なアポトーシスを誘導する(Cancer Research, in revision)ことを見出し、低酸素下ではこの小胞体ストレスが低酸素IGF刺激での放射線感受性増強に必須であることを明らかにした。現在小胞体ストレスと放射線感受性をつなぐ分子機構の解析を行っている。 TAT-ODD蛋白による低酸素耐性細胞の傷害効果を解析した。TAT-ODDシステムにmTORシグナルを増強するRhebを搭載し膵臓癌細胞内に導入したが、低酸素下で低下したmTORシグナルを上昇させることはできなかった。膵臓癌細胞ではRhebの活性化に加えて別の因子がmTORを活性化させるのに必要と考えられる。in vivoでのmTORシグナル増強による放射線感受性の検討は今後の課題として残った。
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