以前に行った動物実験の結果から、輸血による腫瘍増大効果の原因物質は、保存血液中に徐々に蓄積されてくる可溶性MHC class Iであることが推測された。輸血による腫瘍増大効果はこの可溶性MHC class Iであることを証明することを目的に実験を行った。 マウスの保存血液から可溶性MHC class I蛋白を精製し、マウスに静注することにより腫瘍の増大が起きるか否かを検討する予定であった。市販されている抗MHC class I抗体を用いたアフィニティークロマトグラフィーにより保存血中の可溶性MHC class Iの抽出を行った。その蛋白のアミノ酸配列をプロテインシークエンサーで調べたところ別の蛋白であることが確認された。フローサイトメトリー用の抗体しか市販されておらず、抗体の特異性に問題があったと考えている。今後、抗体を変更し、さらに数種類の抗体を併用することによりアフィニティクロマトグラフィーの精度をあげ、可溶性MHC class I蛋白を精製する予定である。 ウェスタンブロッティングによる保存血中の可溶性MHC class I蛋白の検出を行っているが、同様の抗体の問題から、結果はまだ得られていない。抗体を変更し、免疫沈降法等を用いて保存血中の可溶性MHC class I抗原の定量を行う。 MHC class Iは細胞膜上でβ2microglobrinに裏打ちされて存在するためβ2microglobrinのノックアウトマウスは、MHC class I蛋白を発現していないことがわかっている。このノックアウトマウスの保存血を輸血した時に腫瘍増大効果があるか否かを検討する。輸血用血液を得るためには数十匹のマウスが必要であり、ノックアウトマウスを購入し繁殖中である。
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