研究概要 |
同種血輸血と癌に関しての報告は多数存在するが、その機序はいまだ不明な点が多く結論は得られていない。我々は、動物実験において輸血血液中の自己、非自己の違いに関連する可溶性因子が輸血による腫瘍増大効果の原因物質の一つであることを明らかにした(Okuyama : Surg Today 2004)。他の報告と照らし合わせその原因物質は輸血血液中に徐々に増加してくる可溶性MHCclass Iが最も有力であると考えている。本研究では、可溶性MHCclass Iが腫瘍増殖を引き起こす原因物質であるか否かを明らかにし、それによって引き起こされる免疫抑制の機序を解明することを目的とする。現在、目本でも全血液製剤の貯血前白血球除去導入の準備が進められているが、貯血前白血球除去により可溶性MHC class Iは蓄積されないことが証明されている。輸血による免疫抑制の原因物質が可溶性MHC class Iであることが示されれば、癌免疫の観点からも貯血前白血球除去は有用であり導入のevidenceとなる。 すでに使用している実験モデルに若干の変更を加え引き続き実験を行った(Okuyama, Surg Today 2004)。すなわち、recipient mous C57BL/6Jにmelanoma cellを背部に皮下注しdonorとしてBALB/cの血液を輸血し(wild typeとMHC class Iのknock out mouseの2種類)、腫瘍の増大を比較している。 市販されている抗MHC class I抗体を用いたアフィニティークロマトグラフィーにより保存血中の可溶性MHC class Iの抽出を行った。その蛋白のアミノ酸配列をプロテインシークエンサーで調べたところ別の蛋白であることが確認された。フローサイトメトリー用の抗体しか市販されておらず、抗体の特異性に問題があったと考えている。今後、抗体を変更し、さらに数種類の抗体を併用することによりアフィニティークロマトグラフィーの精度をあげ、可溶性MHC class I蛋白を精製する予定である。 ウェスタンブロッティングによる保存血中の可溶性MHCclass I蛋白の検出を行っているが、同様の抗体の問題から、結果はまだ得られていない。抗体を変更し、免疫沈降法等を用いて保存血中の可溶性MHC class I抗原の定量を行う。
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