研究概要 |
昨年度、研究計画にのっとり白色家兎の頚動脈バルーン擦過28日後に頚動脈をePTFEグラフトで置換するモデル作成した。しかし人工血管置換時に中枢・末梢の遮断部位で内膜の解離や内膜肥厚のために宿主動脈と人工血管との間に生じた大きな内腔口径差のためにグラフト開存が得られないという昨年度の結果から、本年度は人工血管置換する時点を内膜が固定される6週目と内膜肥厚の軽度である1,2週目に置換するモデルを作成することで、研究の進行をはかった。頚動脈バルーン擦過1週、2週後の頚動脈置換自体は特に問題なく施行された。しかし6週目の人工血管置換は、昨年の28日目と同様宿主動脈の内膜肥厚により内口径がePTFEグラフトと比して小口径となり臨床における吻合と異なり血行力学的に不良な吻合となった。現在入手可能な最小口径人工血管は2mm径であり、臨床における問題点を解決しうるモデルとしては頚動脈バルーン擦過1週、2週後の頚動脈置換モデルであり、4週6週目の人工血管置換は断念した。頚動脈バルーン擦過1週、2週後の置換前の内膜肥厚部の(1)extracelluar signal regulated kinase-1/2(ERK),(2)phosphatidylinositol 3-kinase(PKB),(3)Cyclin D1をそれぞれ吻合部内膜肥厚の各signal pathewayの前値としてactivityを(1)(2)(3)についてはwestrern blottingで検討したところ、ERK, PKBは頚動脈バルーン非擦過コントロール群と同等の活性であったが、(3)Cyclin D1はどちらの時点でもコントロール群よりも有意に発現を認め、内膜肥厚部の細胞は増殖期にあった。臨床では完成された硬化動脈に吻合を行うが、本研究計画では内膜肥厚内の平滑筋細胞が増殖期にある時期に吻合という刺激・外傷を与えることになった。このため、まずsignal pathwayの経時変化を検討した。人工血管置換後肥厚内膜を採取可能となる1週目と2週目のERK, PKBは活性が高まり、cyclin D1は発現が更新した。 本研究ではモデル作成において計画の変更を余儀なくされたため、当初予定された結果を出せなかったが、人工血管吻合部内膜肥厚においてもERK, PKBを介したsignal pathwayが活性化されcyclin D1が発現する可能性が示唆されたことから、ERK, PKBを介したsignal pathwayをブロックすることで人工血管置換術後の内膜肥厚を抑制できる可能性が示唆された。
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