研究概要 |
17年度実験計画にのっとり、白色家兎の頚動脈バルーン擦過モデルを作成した。安定した内膜肥厚が形成されるまで練成期間を要し、その後擦過28日目の人工血管置換モデル作成にかかった.しかし人工血管置換時の総頚動脈の中枢末梢遮断により肥厚内膜に解離がおき、遠隔期の開存のみならず術直後のグラフト開存が安定して得られなかった。また内膜肥厚が厚すぎるために血流自体が低下し、自家血管に比して抗血栓性の劣る人工血管では開存を得られることが困難である可能性も示唆された。このため内膜がしっかり固定される6週目に置換するモデルと内膜肥厚の軽度である1,2週目に置換するモデルの作成を行い、研究の進行をはかった。6週目の人工血管置換は、宿主動脈の過度の内膜肥厚により内口径がePTFEグラフトと比較して小口径となり臨床で行われる吻合とは大きく異なり血行力学的に良とはできない吻合となった。現在入手可能な最小口径人工血管は2mm径であり、本研究の臨床における問題点を解決しうるモデルとしては頚動脈バルーン擦過1週、2週後の頚動脈置換モデルとし研究計画を変更した。バルーン擦過1週、2週後の内膜肥厚部の(1)ERK1/2,(2)PKB,(3)Cyclin D1をそれぞれ吻合部内膜肥厚の各signal pathwayの前値としてそのれぞのactivityを検討した。ERK, PKBは頚動脈バルーン擦過しないコントロール群と同等の活性であったが、(3)Cyclin D1はどちらの時点でもコントロール群よりも有意に発現を認め、内膜肥厚部の細胞は増殖期にあった。通常臨床では完成された硬化性病変に吻合を行うが、本研究計画では内膜肥厚内の平滑筋細胞が増殖期にある時期に吻合という刺激・外傷を与えることになった。このため、BrdUを用いた平滑筋細胞の増殖機能を測定する研究は有用ではないため施行せず、先にsignal pathwayの経時変化を検討した。人工血管置換後1・2週後の肥厚内膜のERK, PKBの活性はやや高値を示すにとどまったが、cyclin D1は発現が更新した。本研究ではモデル作成において計画の変更を余儀なくされたため、当初予定された結果を出せなかったが、人工血管吻合部内膜肥厚においてもERK, PKBを介したsignal pathwayが活性化されcyclin D1が発現する可能性が示唆されたことから、ERK, PKBを介したsignal pathwayをブロックすることで人工血管置換術後の内膜肥厚を抑制できる可能性が示唆された。
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