組織再生には至適な(1)細胞源、(2)足場、(3)増殖・分化因子が必要である。脂肪組織への分化能を維持する脂肪組織由来脂肪前駆細胞は、脂肪組織への分化能を持ち、脂肪組織再生の細胞源となると考えられるが、臨床応用に耐えられる量の脂肪組織を再生させるためにどの程度の細胞数を必要とするかは不明であった。我々は、十分な細胞数を得るためにヒト脂肪前駆細胞の至適継代数について検討した。bFGF添加群と非添加群とそれぞれ10継代まで行い、MTT assayにて増殖能を、GPDH activity assayにて分化能の変化を評価した。10継代まで、播種時の細胞数が回収時にはbFGF非添加群で、1.4〜2.6倍に、bFGF添加群で4.5〜7.2倍に増加し、bFGF添加の有無に関わらず、いずれの群でも増殖能は維持された。MTT assayでも同様に結果を得た。分化能に関しては4〜6継代まで分化能は保たれているがそれ以降は低下した。その傾向はbFGF添加群で特に強く見られた。これらの結果は、4継代すれば脂肪細胞への分化能を有した脂肪前駆細胞を106〜108個確保できることを示している。 この結果を踏まえ、ヒト脂肪組織より単離した脂肪前駆細胞にbFGFを添加して3継代して増殖させた細胞を用いてin vivoでの実験を行った。typeI collagenでできたscaffoldにgelatin microsphereを用いてbFGFを徐放したもの、しないものを用意した。これらそれぞれに細胞数0、5×105、2×106、8×106個の脂肪前駆細胞を含浸させ、6週齢・雌のヌードマウス背部皮下に埋め込みを行った。埋め込み後6週、および12週後に犠牲死させ、H-E染色とoil red o染色にて再生脂肪の評価を行ったところ、埋め込み後12週での脂肪再生が良好であり、細胞数を多く埋め込んだものに特に良好な脂肪組織再生が見られた。 また、アデノウイルスを用いてbFGFを脂肪前駆細胞に遺伝子導入し、細胞が自律的に増殖することを確認した。至適な感染効率を検討し、in vivoの実験で用いる準備を行っている。
|