本年度の研究実績は以下の通りである。 1.ヒト乳癌細胞におけるアディポネクチン受容体の発現解析 前年度の検討により、血清アディポネクチンが乳癌の易罹患性に影響することを明らかにした。しかし、アディポネクチンが正常乳腺や乳癌細胞に直接影響を及ぼしているかどうか、という点に関しては不明である。この点を明らかにするため、正常乳腺細胞、乳癌細胞におけるアディポネクチン受容体1および2の発現を検討した。まずwestern blottingによる解析を行った結果、乳癌細胞株においてアディポネクチン受容体1および2が発現していることを確認した。さらに免疫組織染色による検討を行ったところ、正常乳腺細胞、乳癌細胞いずれにおいてもアディポネクチン受容体1および2の発現が認められた。以上の結果から、アディポネクチンは正常乳腺細胞、乳癌細胞に対して、直接作用を及ぼしている可能性が示唆された。 2.血清レプチンおよび乳癌組織におけるレプチン受容体発現量が予後に与える影響の検討 In vitroの検討により、レプチンは乳癌細胞の増殖を促進することが示されている。そこで、ヒト乳癌においても血清レプチン濃度、および乳癌組織におけるレプチン受容体の発現量が、乳癌の予後と相関するかどうかを検討した。91例の乳癌組織を対象に、腫瘍内のレプチン受容体(long form (L)およびshort form(S)) mRNA発現量を定量的に解析した。その結果、レプチン受容体LとSの両方の発現量が高い群では、予後は有意に不良であった。さらに、レプチン受容体LとSの両方の高発現群を血清レプチン濃度の高い群と低い群に分け、予後を検討した結果、血清レプチン濃度の高い群でのみ受容体の発現量と予後に相関が認められた。以上の結果から、乳癌においてレプチン受容体1と2が高発現し、かつ血清レプチン濃度が高くなると、レプチンシグナルの活性化が生じ、乳癌の予後に影響すると考えられた。肥満者では血清レプチン値が上昇していることから、肥満者の乳癌が予後不良であるのは、レプチンが原因である可能性が示唆された。
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