8週齢雄SDラットを用いてHMGB1の体内動態及びその役割について検討を行った。60分の70%肝部分虚血再灌流モデルでは、血中HMGB1濃度は対照群で低値であったが再灌流直後で最高値となり再灌流後12時間で最低値となった。虚血時間を90分へと延長したところ血中濃度は有意に高い結果が得られた。腸間膜動脈虚血再灌流モデルを多臓器の虚血再灌流モデルとし検討したが、血中濃度の変化は認められなかった。70%肝部分虚血中の^<125>I-recombinant HMGB1消失率は、対照群では投与後24時間で約95%であったのに対し、虚血群では約50%と有意な低下が認められた。免疫染色よる組織評価では、核に存在しているがHMGB1は虚血再灌流刺激により細胞質へと局在の変化が認められた。よって、虚血再灌流による血中HMGB1濃度上昇は肝臓特異的現象であり、さらに血中HMGB1の代謝に深く関わっている事が示唆された。 30分全肝虚血再灌流致死モデルでの治療実験では、HMGB1中和抗体投与により有意に生存率が改善し、類洞での鬱血および肝細胞壊死が抑制されていた。HMGB1吸着カラムを用いた虚血前後15分間の吸着療法では、生存率の有意な改善に加え肺胞壁の肥厚および鬱血の著明な改善が認められた。以上から、肝手術などの臨床応用の可能性が期待できると考えられた。以上の結果について現在雑誌投稿中である。 肝癌切除例でのHMGB1発現は、癌細胞でのHMGB1細胞質発現が独立予後因子となり、さらにHMGB1の受容体の一つであるReceptor for advanced glycation end products(RAGE)の周囲肝での発現も予後増悪因子となり得た。両者が高発現している症例では、周囲肝でのApotosis数も有意に多い傾向が認められた。以上よりHMGB1は肝癌症例に於いてApoptosisに深く関わっており、さらに患者予後に関わっている事が推測できた。以上の結果を第17回アジア太平洋肝臓学会議(APASL Conference)にて発表した。
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