研究概要 |
マウスの心臓移植モデルを用いて実験を行った。ドナーはC57BL/10,レシピエントはCBAでフルミスマッチの組み合わせである。無処置ではCBAマウスはC57BL/10の移植心を8日で拒絶する。移植7日前にドナーの脾細胞を気管内に投与すると、移植心の生着は中央値が70日に延長する。免疫制御細胞の存在を確かめるために移入実験をおこなった。ドナー脾細胞投与7日後、心臓移植を行うべき日に、心移植を行わず、脾臓を取り出し、脾細胞を別の無処置マウスに投与した。そして、そのマウスにC57BL/10の心臓を移植した。この脾細胞移入により中央値は70日と延長した。このことは、移入した脾細胞の中に免疫制御細胞が存在することを示す。そこで、免疫制御細胞の分画をどうていするために、移入する細胞を、B細胞、CD4陽性細胞、CD8陽性細胞、樹状細胞に分けたところ、CD4陽性細胞と樹状細胞の移入で、移植心の生着は延長した。樹状細胞が免疫寛容を誘導することは興味深いが、今回はその解析は行わなかった。CD4分画をさらにこまかくするために、CD25陽性細胞または陰性細胞、CTLA4陽性細胞または陰性細胞に分けて、細胞移入実験を行った。この結果CD25陽性、CTLA4陽性細胞で著明な心臓移植片の生着延長が見られた。よってわれわれの実験系でのひとつの免疫制御細胞の分画はCD4陽性CD25陽性CTLA4陽性であった。従来型の免疫抑制剤(アザチオプリン、サイクロスポリン、FK506,MMF,ラパマイシン)が免疫制御細胞の誘導にどのように働くかを気管内投与モデルを用いて調べた。脾細胞を気管内投与後から別のマウスに細胞移入を行う間の7日間に連日上記の薬剤を投与した。その結果、サイクロスポリン、アザチオプリン、高濃度のFK506では免疫制御細胞の誘導を阻害した。一方で、MMFとラパマイシンでは免疫制御細胞の誘導の相乗的に働いた。骨髄から常時新しい細胞が供給される通常の状態では、免疫寛容をうるためにアナジーやディレーションによれば、終生薬剤の投与が必要になる。ところが、免疫制御細胞を誘導するレギュレーションを樹立すれば、その時点で薬剤の投与は不要になる。臨床では免疫制御細胞の誘導を導けば、少なくとも従来型の免疫抑制剤の量を軽減でき、副作用を回避できる。急性期は今まで通りのプロトコールで移植心の拒絶反応を防止し、慢性期には免疫制御細胞が誘導できる薬剤に適宜変更することで、上記が達成できる。その薬剤の組み合わせは、低用量のFK506とMMF,ラパマイシンの組み合わせである。一方で、閉塞性動脈硬化症患者に使用しているサルポグレラートも免疫制御細胞の誘導に相乗的に働くことが判明した。よって、サルポグレラートを移植の慢性期に投与することは非常に有益なことである。以上が、この2年間にこの研究費の使用によって判明したことです。
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