研究課題
本研究の目的は、蛋白合成に関して、これまで蛋白合成の基質、エネルギー源、核酸の前駆体等栄養学的に注目されてきたアミノ酸の薬理学的な役割、すなわち細胞内シグナル伝達に及ぼす影響を明らかにすることである。この経路の活性化により、肝再生能のレベルアップをはかり、肝切除可能体積の増加等が期待される。前年度は肝細胞増殖、アポトーシス抑制におけるアスパラギンの重要性が培養肝細胞で明らかになったが、今回、ラット70%肝切除モデルにおいては、血漿アルギニン濃度の低下が肝細胞増殖に影響している可能性が認められた。アミノ酸によって影響を受けるmTOR(mammalian Target of Rapamycin)経路のうちp70^<S6> kinaseはリボゾーム合成を制御し、アルギニンの低下は増殖抑制に関与する可能性も考えられ、4E-BP1(eukaryotic initiation factor 4E-binding protein 1)は近年、抑制により細胞によってはアポトーシスを引き起こすことが報告されている。臨床的には、術後早期のアルギニンの補給が蛋白合成能の早期回復に重要である可能性が考えられる。また、血漿アルギニン濃度の低下は、時間の経過とともに補正されて肝再生に進むが、このメカニズムは明らかではない。アルギニンは尿素回路構成アミノ酸のひとつでもあり、窒素代謝において重要な役割を果たすため、代謝、栄養学的にも見過ごせない問題である。一方、アルギニンはNOの代謝においても重要な役割を果たすアミノ酸であり、NOの役割も肝再生において注目されており、今後さらに検討が必要である。
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