研究課題
基盤研究(C)
本研究の目的は、蛋白合成に関して、これまで蛋白合成の基質、エネルギー源、核酸の前駆体等栄養学的に注目されてきたアミノ酸の薬理学的な役割、すなわち細胞内シグナル伝達に及ぼす影響を明らかにすることである。この経路の活性化により、肝再生能のレベルアップをはかり、肝切除可能体積の増加が期待される。平成17年度は、肝細胞HEPG2を用いた検討で、この経路を制御する鍵となるアミノ酸は必須アミノ酸ではないアスパラギンであった。培養液中のアスパラギン濃度の抑制により、HEPG2の増殖が抑制された。また、これらの細胞中にはアポトーシスを引き起こすものも認められ、増殖抑制以外の効果も推測される。アミノ酸によって影響を受けるmTOR経路のうちp70^<s6>kinaseはリボゾーム合成を制御し、アスパラギンの低下は増殖抑制に関与する可能性も考えられ、4E-BPIは近年、抑制により細胞によってはアポトーシスを引き起こすことが報告されている。臨床的には、術後高カロリー輸液で管理した場合、現行の輸液製剤中にアスパラギンは含有されていず、経口摂取により初めて取り入れられるようになる。肝再生においては、早期の経口摂取の開始、経腸栄養によるアスパラギン投与もしくは経静脈投与が可能なアスパラギン製剤の開発が重要と考えられ、さらに検討が必要である。平成18年度は、ラット70%肝切除モデルにおいて、血漿アルギニン濃度の低下が肝細胞増殖に影響している可能性が認められた。臨床的には、術後早期のアルギニンの補給が蛋白合成能の早期回復に重要である可能性が考えられる。アルギニンは尿素回路構成アミノ酸であり、窒素代謝において重要な役割を果たすため、代謝、栄養学的にも見過ごせない問題である。一方、アルギニンはNOの代謝においても重要な役割を果たすアミノ酸であり、NOの役割も肝再生において注目されており、今後さらに検討が必要である。
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