我々は、現在の最大耐用量に基づく投与量設定法において、tumor dormancy therapyの概念および遺伝子薬理学知見から、継続性と個別化の2点を改善した、individualized maximum repeatable dose(iMRD:個別化最大継続可能量)法を開発した。このiMRD法による臨床試験を複数の癌で企画、推進してきた。iMRD法は、換言すればtailored doseであり、その目的は従来の「一定量」から「一定の血中濃度」にすることである。本年度は、これを確認するため、胃癌に対するweekly paclitaxelのiMRD法がなされた症例を対象に、iMRDとスターティングドーズでの血中濃度、AUC(Area under the curve))との相関を検討した。また、各抗癌剤においてiMRDの個人差について検討を加え、抗癌剤の個人差をより明瞭にした。 その結果、60mg/m^2でのAUC_<0-24>は、iMRDが40mg/m^2の症例の平均が4133±382ng/ml^*hr、50or60mg/m^2の症例では3121±298ng/ml^*hr、70mg/m^2の症例では2057±253ng/ml^*hrとなり、iMRDとAUCは有意の逆相関関係が認められた(p<0.01)。iMRDの個人差は、Paclitaxelでは約3倍となり、これは先に示したAUCの個人差とほぼ一致していた。また、Gemcitabineでは3倍、CPT-11では5倍の差が認められた。 以上より、スターティングドーズのAUCによりiMRDが予測可能であることが示唆されると同時に、iMRD法が「一定の血中濃度」で投与する方法である可能性が示唆された。抗癌剤の個人差が3-5倍存在する事が、iMRD法によって初めて明らかにされた。このことは、現在の個々の遺伝子背景も知らずに、最も高用量から始めるという方法に疑問を呈した成績と考えられた。
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