(1)臨床例における腹膜転移(再発)の早期診断 腹膜播種が確定している症例において血清IV型コラーゲン値は全例高値であったが、腹膜再発や再燃の過程において画像診断や臨床症状、既存の血清腫瘍マーカーと比較し、早期診断に有用かどうかを検討した。現在、腹膜転移を有する13症例を追跡しているが、いずれの症例においても症状の進行とともに血清IV型コラーゲン値は上昇している。また、画像診断や臨床症状、腫瘍マーカーの上昇が明確でない腹膜再発高危険症群のなかに血清IV型コラーゲン値の上昇してきた症例が5例存在しており、うち3例は腹腔鏡検査において腹膜再発と診断された。残り2例はcut off値付近を推移しており経過観察中である。 (2)胃癌細胞株における検討 胃癌におけるアンギオテンシン1型受容体についての検討 In vitroにおいてヒト胃癌細胞株5株中4株にアンギオテンシン1型受容体(AT1)が発現しており、アンギオテンシンIIの添加によりその増殖率は亢進した。また、この増殖率亢進はAT1の拮抗剤であるcandesartanにより抑制された。このAT1を介した増殖率亢進の機序は、ERKのリン酸化に伴う増殖シグナルおよびNF-kBの活性化に伴うsurvivinの誘導による抗アポトーシス効果であることを証明した。 ヌードマウスに高度腹膜転移株OCUM-2MD3を1x107個腹腔内投与したところ、移植4週目には癌性腹水を伴う腹膜播種が形成されたが、組織学的には腫瘍の線維化はそれほど顕著ではなかった。そこで、AT1を介した臓器の線維化についての検討は断念し、AT1を介した腫瘍増殖に対する分子標的治療の可能性についてin vivoで検討した。移植1週間後からcandesartan 10mg/kgを連日経口投与した群はコントロール群と比較し、有意に生存率の延長を認めた。 以上より、胃癌腹膜転移の早期診断に血清IV型コラーゲン値測定が有用である可能性が示された。また、胃癌の増殖および線維化にはAT1を介する経路が存在し、その拮抗剤であるcandesartan(ブロプレス:降圧剤)をもちいた分子標的治療の可能性が示された。
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