細胞の増殖、浸潤、分化、生存とシグナル伝達系との関連性は良く知られ、特にRasシグナル伝達系は重要な経路の1つとされている。RIN1遺伝子は染色体11q13.2に位置し、N側末端よりSH2ドメイン、SH3ドメインならびにC側には活性化H-Ras、14-3-3蛋白質と結合するドメインを有し、Rasシグナル伝達系に重要な遺伝子として考えられる。今回、大腸癌におけるRIN1遺伝子の発現、細胞内における局在、結合蛋白質について検索し、大腸癌とRIN1遺伝子との関わりについて検討した。 大腸癌細胞株ならびに101例の大腸癌症例より原発巣、隣接正常粘膜を採取し、新鮮凍結組織からRNAを抽出後、RT-PCR法にてRIN1 mRNAの発現を検索した。またその発現と臨床病理学的所見、生存率との関連性について検討した。さらにヒト大腸癌細胞株に対してmembrane fraction法、免疫沈降法、ウエスタンブロット法を用いてRIN1蛋白質の細胞内局在、14-3-3蛋白質との結合について検討をおこなった。 大腸癌細胞株(4種類)すべてにRIN1 mRNAの発現が確認され、大腸癌切除症例では101例中52例(51.5%)にRIN1 mRNA過剰発現が認められた。その過剰発現は静脈侵襲(p=0.01)に有意な相関がみられた。生存率の検討では、RIN1 mRNA陰性例の5年生存率が83%であるのに対し、陽性例では55%と有意に不良であった。またRIN1蛋白質の細胞内局在では細胞質に強く発現が認められ、14-3-3蛋白質との結合を示していた。 大腸癌においてRIN1分子の過剰発現が過半数に認められ、その発現は細胞質内で14-3-3蛋白質と結合を示した。このことは細胞膜上でRIN1分子とH-Ras分子との結合率が低下することが考えられ、この発現形式が細胞増殖のコントロールを不良にすることが推測された。 以上よりRIN1遺伝子が大腸癌の悪性度を解明する1つの機序になることが考えられた。
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