(目的)癌の発生、進展には遺伝子配列の変化を伴う遺伝子異常と、DNAメチル化のような遺伝子配列の変化を伴わない遺伝子修飾の異常が共に関与している。プロモーター領域のメチル化は癌抑制遺伝子の転写活性を失活させるが、片方のアレルの遺伝子異常と共にKnudsonのsecond hitとして他方のアレルに働く。一方脱メチル化はゲノム全域にわたり認められ、ゲノムの不安定性を惹起する事が示唆されている。このように遺伝子異常と遺伝子修飾の異常は互いに密接に影響しあい、癌化に深く関わっていると考えられ、癌の病体解明には相互の役割を明らかにすることが肝要である。そこで我々は遺伝子修飾の異常をゲノム全域に渡り網羅的に捕捉、評価し、遺伝子異常と関連づけて検討した。 (対象と方法)胃癌86症例、大腸癌67症例を対象とした。遺伝子修飾の異常は、約150のCpG lociのDNAメチル化の変化をmethylation sensitive amplified fragment length polymorphism(MS-AFLP)法を用いて検出した。遺伝子異常は、約100の染色体領域のDNAコピー数の変化をarbitrarily primed PCR(AP-PCR)法を用いて検出した。 (結果)遺伝子修飾の異常、遺伝子異常の分布は共になだらかな増加曲線を描いた。遺伝子修飾異常はメチル化、脱メチル化共に加齢に伴い増加したが、遺伝子異常は年齢との相関を認めなかった。メチル化異常は脱メチル化異常と相関した。遺伝子修飾異常はメチル化、脱メチル化異常共に遺伝子異常と相関したが、特に脱メチル化異常がより有為に遺伝子異常に関与していた。 (結語)遺伝子修飾の異常、特に脱メチル化異常は加齢に伴いその頻度を増し、ゲノムの不安定性を惹起することにより遺伝子異常を引き起こし癌化に関わっていることが示唆された。
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