1型糖尿病や症状の進行した2型糖尿病では生命維持のためにインスリン注射が絶対的適応である。免疫抑制剤や移植外科学の進歩により、臓器移植や組織移植は一応の成果を挙げているがドナー不足は重大な問題である。そこで、インスリン産生細胞を各種幹細胞から分化誘導する再生医学研究が注目されている。しかし、現在までのところ、移植に足る細胞はヒトではともかく、大動物でも国内外で報告されていない。今回、インスリン産生細胞を誘導することを目的として膵組織幹細胞の分離・同定をおこなった。 平成18年度は、前年度に引き続き、マウス膵組織からcell sortingを用いて分離した幹細胞分画をin vitroでインスリン陽性細胞やグルカゴン陽性細胞に分化誘導する培養法を確立した。この細胞のインスリン産生能は正常細胞の約2%であった。一方、in vivoでヌードマウスの腎被膜下に移植すると、この細胞は約一ヶ月後に正常膵島に匹敵するインスリン産生能を示すまで成熟した。また、この膵島様組織には他のホルモン産生細胞も含まれていることが明らかとなった。膵外分泌細胞への分化も認めたことから、組織幹細胞による膵組織の再構成が達成されたと考えられた。一方、DNA microarrayによる解析でも膵前駆細胞に必須の遺伝子が幹細胞分画に高発現していることが確認され、新しい膵組織幹細胞マーカーとして細胞表面マーカーや転写因子の同定をおこなった。また、幹細胞マーカーをノックアウトしたキメラマウスを作製し、サザンブロットやノックインしたGFPの組織内での発現解析により、ノックアウトマウスの樹立を確認した。
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