1型糖尿病や症状の悪化した2型糖尿病では生命維持のためにインスリン注射が絶対的適応である。根治的治療として膵臓移植や膵島移植が成果を挙げているが、ドナー不足は深刻な課題である。そこで、インスリン産生細胞を各種幹細胞から分化誘導する再生医学研究が注目されている。しかし、現在までのところ、移植可能な細胞は報告されていない。今回、糖尿病の治療を目指してインスリン産生細胞を分化誘導するため、膵組織特異的幹細胞の分離・同定に関する研究をおこなった。マウス膵組織から膵上皮と間葉組織を区別する2種類の表面マーカーを組み合わせてcell sortingをおこなった。その結果、膵幹細胞/前駆細胞分画を得ることができた。これは、RT-PCRやマイクロアレイの結果からも確認された。この細胞群が幹細胞/前駆細胞であることを証明するためには、自己増殖能と多分化能を証明することが必要である。ヌードマウスの腎被膜下に移植すると、この細胞は一週間後に分化した細胞と共に未分化な細胞を維持していることが判明した。この未分化細胞をcell sortingして植え継ぐSerial transplantation法により、この細胞が自己増殖能と分化能を持つことが証明された。さらに、インスリン産生細胞は約一ヶ月後に正常膵島に匹敵するインスリン量を有する細胞にまで分化、成熟し、正常膵島と同じくグルカゴン、ソマトスタチン、パンクレアティックポリペプタイドなどのホルモン陽性細胞も分化誘導できることが明らかとなった。また、膵外分泌細胞や導管細胞への分化を認めた事から。この細胞群は膵組織幹細胞/前駆細胞である可能性が高い。さらに、マイクロアレイの結果から、新しい細胞表面マーカーや転写因子も同定された。幹細胞マーカーをノックアウトしたマウスの作成にも成功し新たな表現型の解析にも着手しており、今後の検討が待たれる。
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